「むくみ」は女性外来で受診することの多い訴えの1つですが、体液の量や分布に興常をきたし、組織間液が異常に増量した状態を浮腫とよび、全身に起こる場合と局所性に起こる場合があります。
全身性浮腫の場合、2〜3Lの過剰な組織間液が貯留すると指圧による圧痕を生じますが、ごく軽度の場合は体重増加のみであったり、客観的所見に乏しい場合も多いです。
とくに原因疾患がない、いわゆるただのむくみは、月経前症候群(PMS)の一症状として見られる場合や、同じ姿勢を長時間保持すること、運動不足など、女性ホルモンの変動や生活習慣に起因するものも多いです。
もくじ
病院の診察で確認されること
むくみの診察でまず確認されるものとして、顔面やまぶた周囲がはれぼったい、靴下のゴムの痕がつく、靴がきつい、指輪がきつい、スカートがきつい、手指関節の動かしにくさ、体重増加などが挙げられます。
続いて以下の症状があるかどうかも診察されます。
浮腫の出現様式
全身性か局所性か、左右対称性か非対称性か、急性か慢性か、一過性か持続性か日内差、妊娠・月経周期との関連
随伴症状の有無
尿量減少、体重増加、体重減少、倦怠感、動悸、息切れ、呼吸困難、下痢、脱毛、嘔吐、食欲不振、先行する上気道炎症状など浮腫以外の症状、局所の熱感・冷感、疼痛・瘙痒感の有無
既往歴
心疾患・腎疾患・肝疾患・甲状腺疾患・子宮がんや乳がんの放射線治療、リンパ節郭清術、輸血、アレルギーなど
薬剤服用歴
ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、降圧薬、利尿薬、緩下薬、抗菌薬、漢方薬などの使用の有無
生活歴
飲酒、月経周期、ダイエット・過食。故意に嘔吐を繰り返すなどの摂食行動
むくみ診察の方法
全身性浮腫は両側性が多く、腎性・肝性・心性・内分泌性・栄養障害性、妊娠性、特発性などに分類されます。
患者がむくみを訴える場合、その自覚部位を指で圧迫して圧痕が残れば浮腫ですが、粘液水腫や肥満の場合には圧痕が残りません。
軽度の浮腫の有無には、前脛骨部・足外踝・足背・上眼瞼の視診・触診が重要です。
また、貧血、甲状腺腫、高血圧、不整脈、心音・呼吸音の異常、頸静脈怒張、肝脾腫、黄疸、クモ状血管腫の有無などが原疾患の診断の参考になります。
局所性浮腫は、片側性あるいは一部に限局するもので、リンパ性・静脈閉塞性・アレルギー性炎症性・血管神経性などがあります。
この場合、外傷、手術痕の有無、チアノーゼ・色素沈着など皮膚の色調、浮腫の部位、左右差、発熱、熱感、炎症、発疹の有無などを確認されます。
むくみ(浮腫)と関連する病気
全身性浮腫
①心疾患:虚血性心疾患、弁膜症、心膜・心筋疾患、うつ血性心不全、肺うつ血、肺水腫など
心臓性浮腫は身体の下部に対称性のことが多ぐ心不全患者では体重増加がみられます。
②腎疾患:ネフローゼ症候群。糸球体臀炎、賢不全など
腎性の浮腫は、眼瞼周囲や顔面から始まることが多いです。
③肝疾患:肝硬変、門脈圧亢進症など
肝性浮腫は、下腿にむくみが著しく腹水を認めることが多く、腹壁静脈怒張などがあります。
④消化器疾患・栄養障害:吸収不良性症候群、蛋白漏出性腸炎、悪性腫瘍、低栄養など
⑤内分泌疾患:平状腺機能低下症、クッシング症候群、二次性アルドステロン症など
⑥薬物服用:ステロイド、NSAIDs、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ホルモン剤、漢方薬(甘草)など
⑦その他:特発性、月経前浮腫、更年期浮腫、妊娠浮腫、高度貧血、肥満、高齢者、食塩過剰摂取、起立性、過剰輸液など
限局性浮腫
①炎症性:蜂縱炎、関節リウマチ、痛風
局所の発赤・熱感。疼痛を伴います。
②静脈性:深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、静脈瘤、上下大静脈症候群
原因となる静脈の未梢側に静脈うつ血による圧痕を伴う浮腫を生じ、チアノーゼを伴うことが多いです。
③リンパ性:腫瘍、感染・炎症・外傷。放射線治療後。術後、リンパ節郭清後、フィラリア。先大性など
リンパ性浮腫は片側の四肢に無痛性の慢性浮腫を生じ、局所性の圧痕を残しません。
④その他:打撲、捻挫、骨折などの外傷性浮腫、麻痺肢、血管運動神経性浮腫など
女性のむくみの特徴
甲状腺疾患・月経前症候群・妊娠性浮腫・妊娠高血压症候群・特発性浮腫は、女性に好発するものとして留意が必要です。
これらの中で、月経前症候群に伴うむくみが月経開始とともに改善するのに対して、特発性浮腫は月経周期とは無関係に、下肢を中心とした全身性浮腫がタ方に増悪して著明な体重増加をきたし、腹部膨満感を伴ったり精神的に不安定で摂食障害の既往がある場合が多いです。
また、診察所見上は浮腫を認めないものの、むくみ感が強く冷えを伴うものも、女性の愁訴としてかなり頻度が高いです。
むくみの薬物治療
利尿薬
副作用(脱水・低ナトリウム血症・低カリウム血症・高血糖・高尿酸血症など)を考慮に入れて、水分の体内貯留傾向が著しいむくみに限定して慎重に用いられます。
作用が弱い利尿薬からはじめて徐々に増量しますが、浮腫の程度が強く進行が速いときは、利尿効果が強力なループ利尿薬、なかでも副作用の少ないフロセミドが頻用されています。
漢方薬
漢方医学では、血液以外の水分である「水(すい)」の偏りがむくみであり、水は冷やす性質があって冷えにもつながると考え、利水剤とよばれる体内の水分分布を調節するような処方が中心となります。
体力・胃腸機能などの体質的背景を加味して、以下のような漢方薬を考慮します。
①五苍散:ロ渴・尿量減少・頭痛
②真武湯:全身の冷え・倦怠感・下痢・めまい
③防已黄脅湯:関節痛・多汗
④当帰芍薬散:冷え・頭重感・めまい・貧血
⑤半夏厚朴湯:腹部膨満感・不安感
実際の診瘠においては、これらの漢方薬は単剤として用いたり、組み合わせたりするが、むくみに対しては1〜2力月で効果が現れることが多いといいます。
むくみの物理的療法
深部静脈血栓症の場合は、むくんだ足に弾性ストッキングを装着して空気圧マッサージを行います。
リンパ浮腫の場合は、リンパ管炎を起こさないよう患部を清潔に保ち、圧迫とマッサージを行います。
生活安静・塩分制限・水分制限
安静は肝・腎の循環血漿量を増やして心負荷を軽減するための基本です。ナトリウム貯留による体液量増加に対しては、その度合により塩分制限を加えます。また。浮腫が高度な場合には、併せて水分制服も考慮します。